ポトシから国道5号線を南にウユニ方面へ25キロほど進むとロサリオ温泉の看板があります。
こんな看板です。この看板を左折して未舗装路を3,5キロほど進むとロサリオ温泉の入り口へ到着します。
ロサリオ温泉の正確な位置はこちら
ロサリオ温泉までの未舗装路です。温泉の標高は約3800メートル。最寄りの町ポトシは4070メートルにありますから少し標高は下がります。
バイクで未舗装路を進んでいくと、奥にトンネルが見えバーニョス(お風呂)と書かれているのが見えました。
タオルやら、着替えやら、カメラやら入浴できる準備が整ったころ、1匹のワン公がトンネルの中へ入って行きます。どうやら温泉の道案内をしてくれるようです。
ワン公に付いてトンネルを越えしばらく進むと湯小屋らしきものが見えてきました。温泉管理人に挨拶して色々聞くと、共同湯は4ボリビアーノ(70円)、個室温泉は20、25、30と大きさによって値段が違うようです。一番小さい20ボリビアーノ(340円)の個室を予約しましたが、日曜日のため混んでいて45分待ちという事です。仕方なく待つことにします。
待っている間。共同湯を見学させてもらいました。和気あいあいとした雰囲気ですが、湯船が大きい割に湯の供給量が少ないので、これでは温度が低くなってしまうし温泉の新鮮度や清潔度は期待できません。
個室温泉の待ち時間にケーナを吹いて時間をつぶしていると、車で4時間離れたトゥピサという町から家族で日帰り旅行で来ていたフェルナンド一家とアミーゴ・デ・テルマレス(湯仲間)になりました。温泉でボリビアの人と親しくなれたのは楽しい経験ですが、自分たちと同じような風貌のインディヘナの人たちが、スペイン語風の名前を名乗り、スペイン語を話さなければならない経緯を想像すると言いようのない怒りがこみ上げてきます。
旅行する側としてはこんな楽な大陸は無いのです。スペイン語さえ話せるようになれば、ローカルな人とスムーズにコミュニケーションできますから。でも、これは不自然すぎます。言葉は植民地支配の道具なのだなと思います。日本人の私たちが、戦争に負けたからと言って、もしも、英語を話さねばならず、自分たちの名前を健一郎や優子ではなく、マイケルだのスーザンだのと名乗らねばならないとしたらどうでしょう。
ソーラン節だの日光和楽踊りを英語で歌わないといけないとしたら、どんなに屈辱的でしょうか。泣いても泣ききれないし、魂を抜かれたようになってしまうと思います。インディヘナの人たちは悔しくて悔しくてどうしようもない歴史を繰り返して今に至っているんですよね。親しくなると名前を名乗りあうけれど、インディヘナの人からフェルナンドだの、ロドリゲスだの、ホルヘだのそんな名前を聞くたびに何とも悲しい気分にさせられます。
さて、45分待っていよいよ入浴です。レンガつくりの湯小屋へ入って行きましょう。
午前に入ったフローレス温泉同様、個室の温泉風呂でも湯の総入れ替えは無し、湯量の調節も自分ではできないタイプでした。湯船の広さは約2メートル四方で深さは1,3メートルほど。湯の色は薄いエメラルドグリーン。なめてみると少々鉄分を感じますが無臭です。
湯の供給量は少ないです。注がれる温泉の温度は高温ですが、必要以上に深く大きな湯船のため40度くらいとちょっとぬるく感じるのが残念です。
インディヘナの多いボリビアという土地柄でしょうか、南米の他の国々に比べ、温泉を泳ぐための場所というより浸かるための場所ととらえている人が多いように感じます。湯仲間との話の中でも、あそこは熱い湯が楽しめるからおススメだよという言葉を聞くことができました。湯が熱いことに価値を認める風潮は北米や中南米ではあまりなかったように思います。
カナダではインディアンが使っていたという極々小さい個人用の天然温泉の湯船を見たことがあります。古来からきっと熱い湯を楽しんでいたのだと思います。ペルーのカハマルカではインカの皇帝も好んで浸かっていたという温泉を拝見しました。どちらも無駄に湯船の大きいプール式ではなく、温泉の湧出量と湯船の大きさのバランスを考えた、気持ちよく適温の温泉を楽しむための設計でした。
アメリカ大陸を北から南へ様々な温泉に入りながらバイクで旅行してきましたが、16世紀以降ヨーロッパ人が大量に入ってきたことによって温泉の楽しみ方も変わってしまったのではないか、と思わざるを得ません。先住民たちは、元々熱い湯を楽しむ文化を持っていたのでしょう。ヨーロッパ人が16世紀以降植民地支配を開始したことにより、温泉もヨーロッパ人の好むスタイル、いわゆる浸かるための温泉ではなく水遊びできるような温水プール式が増えて行ったのではないかと考えられます。
現代のアメリカ、カナダ、コスタリカ、コロンビアなどヨーロッパ系住民の多い地域ではスパリゾートや温水プール式など低温の温泉が好まれるため、その数も多いです。元々の源泉温度が高温にも関わらず、水で薄めて30度ほどに冷やしてしまう例や、せっかく個性のある泉質を良しとせず、何重にもフィルターをかけて、できるだけ真水に近い泉質に近付けようと努力をしている施設もありました。元々、温泉への考え方が全く違うんですね。
その点、中南米の中でも、インディヘナ系住民の多いグアテマラ、エクアドル、ボリビアやペルーのアンデス地方では、ヨーロッパ系住民の好むプール式温泉が多数を占めるにしても、高温の温泉も少ないながら存在し、好んで入浴する人も多いのが特徴です。熱い湯に好んで浸かるインディヘナのおじさんたちに今まで何人もお会いしました。日本のような感覚で熱い湯に浸かり、体をほぐし、それを気持ち良いと感じる習慣が今でもしっかりと残っているのだと思います。